大麦を乾燥するキルンは蒸溜所のシンボルでもある。上部の独特の外観は"パコダ"と呼ばれる。乾燥中の排気口である
LaphroaigのFloor Malting。水分を吸わせた大麦を床に広げ時々攪拌しながら1週間程度発芽させる
発芽した大麦を乾燥させる時にこの炉でPeatを燃やし独特の薫煙香を与える。Laphroaigのウイスキーはこの香が非常に強い
穀類を発芽・乾燥する事をMalting(日本語では“製麦")と言う。大麦を発芽・乾燥したものはBarley Malt(麦芽或いはモルト)、ライ麦を使えばRye Malt(ライ麦芽)である。今回の記事はこの麦芽を作る製麦についてである。
スコットランドで蒸溜所の多い地方を旅していると、独特の尖塔のある建物をみかけることが多い。これはモルト蒸溜所の麦芽の乾燥塔で、大麦を発芽させて麦芽をつくる最終工程で発芽した大麦を乾燥する為のものである。これらモルト蒸溜所の製麦工場は19世紀後半から20世紀前半にかけて建設され、現在では操業していないものが多いが、数箇所の蒸溜所では今でも伝統的な方法で製麦が行われている。そのプロセスの概略は下記のようになる。
1. 原料大麦
スコットランドでは大麦は例年8月末から9月中旬にかけて収穫されるが、収穫されたばかりの大麦は発芽しないので、最低でも2ヶ月程は貯蔵しておく。
2. 浸麦
発芽するようになった大麦(5-10トン程度)を大きなタンク(浸麦槽)にいれ水を張って大麦に水分を吸収させる。数時間経ったら一旦水を抜いて7-8時間大麦を空気にさらし、酸素を与える。この操作を2-3回繰り返すと大麦中の水分が45%程度になり発芽の準備が整う。
3. 発芽
大麦をコンクリートのフロアーに広げ、1週間程度発芽させる。発芽中は大麦の層の厚さを加減したり時々攪拌したりして、温度や水分の又麦が絡み合わないような管理が必要である。指先で大麦粒の内容物を取り出し、親指と人差し指の間で伸ばしてむらなく伸びるようなら発芽の終了である。
4. 乾燥
発芽が終了すると成長を止める為に、大麦を乾燥塔の網目のフロアーに移し下から温風を送って乾燥する。乾燥開始直後は温度を低く、徐々に温度を上げて麦芽の酵素力を落とさず且つ乾燥による好ましいフレーバーを付けることがポイントとなる。この乾燥の工程ではピートを燻してピーティー、スモーキーと言われるスコッチ特有の香気を付ける。
これが現存しているフロアーモルティングだが、19世紀前半までスコットランドのハイランド地方や島々では農家や豪族の館、修道院などで小規模なウイスキーの蒸溜が行われていた。蒸溜器の大きさは10-20リットル程度、従って1シーズンに使用された大麦でせいぜい数百Kg程度と思われる。この場合の製麦は、大麦を大きな麻袋にいれ近くの小川に投げ込み、3日くらいして大麦がたっぷり水分を吸ったら納屋の床に広げ、シャベルで時々ひっくり返しながら10 日数日間発芽させ、頃合をみて乾燥したと考えられている。