経済のグローバル化の背景となった主要な出来事とスコッチ・ウイスキー業界の動きを列記してみる。
1957年。
欧州経済共同体、略称EEC(European Economic Community)が発足。1957年のローマ条約によって成立し、58年1月1日に発足した。フランス、西ドイツ、イタリア、ベネルクス3国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)の6ヵ国が加盟し、経済的な国境を取り払って共同市場の形成を目指した国際組織であった。次のヨーロッパ諸共同体(EC)へのステップとなった。
1967年。
欧州諸共同体(EC:European Communities)発足。EECに欧州石炭鉄鋼共同体と欧州原子力共同体の運営機関を統合して成立した。EECのメンバー6か国に加えて、1973年にはイギリス、アイルランドとデンマークが、1986年にはスペイン、ポルトガル、ギリシャが加盟し全12か国となった。
1986年。
アライド・テトレーが、カナディアン・クラブやバランタインを所有するハイラム・ウォーカー社を買収。スピリッツ事業を統合してアライド・ディスティラーズ社を創設した。
1989年。
EECの理事会規則で、蒸溜酒の定義、種類、表示、ラベリング及び地理的表示の保護に関わる規則を制定。その中で、一般的にウイスキーの定義は、「穀物のみを原料として、麦芽又は他の天然の酵素で糖化し、アルコール度数94.8%以下で蒸溜し、700リットル以下の木樽で3年以上貯蔵したもの」であり、スコッチ・ウイスキーという名称は地理的表示として保護の対象と規定された。
11月9日にベルリンの壁が崩壊。翌年、ドイツが再統一され、以後、自由主義経済圏が東欧へ拡大した。
1993年。
欧州連合(European Union)条約調印。欧州連合では、経済分野に関するEC(欧州諸共同体)の枠組みのほかに、共通外交・安全保障政策、司法という加盟国政府間の協力枠組みを新設、ヨーロッパの更なる統合が推進された。
1995年。
世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)が発足。1947年から続いた関税及び貿易に関する一般協定(GATT)を補強し、物品だけでなく、金融、情報通信、知的財産権及びサービス貿易も含んで自由、無差別、多角的通商体制を強化・推進する体制が整備された。酒類の原産地名は、知的財産権として保護されることになった。
1997年。
スコッチ・ウイスキー業界No.1のギネスとNo.2のメトロポリタンが合併してディアジオ(Diageo)社が誕生。
2001年。
ディアジオ社とペルノ社が、カナダの酒類大手、シーグラム社を分割買収。
2002年。
現金通貨としてユーロが発足。現在、欧州連合19か国を含むヨーロッパの25の国で使用されている。
2005年。
フランスの酒類大手のペルノ社が、アライド・ドメック社を買収。
2008年。
ヨーロッパ議会において、1989年にEECの理事会規則で定められた酒類の定義、種類、表示、ラベリング及び地理的表示の保護に関わる規則を更新・強化した規則を制定。リーマン・ショックと世界金融危機。
2009年。
上記、ヨーロッパ議会における酒類の新規則の制定を受けて、英政府は、スコッチ・ウイスキーの定義、酒類、生産地域を含むラベル表示の規則等を厳密に再規定。
2014年。
サントリー・ホールディングスがBeam Global Spirits & Wine.を買収。傘下のビーム・サントリー社はディアジオ社、ペルノ社に次ぐ世界第3位のスピリッツ・カンパニーとなった。
以上のように、過去30年間の世界の政治、経済や交易体制の変化は、ざっと概観しただけでもまことにダイナミックである。一言で言えば“グローバル化”という事だろうが、グローバルに拡大する市場と将来性への対応として、スコッチ・ウイスキーの有力各社は合併・買収による経営規模の拡大を図ったと言えるだろう。この中で中心的な役割を果たしたのは“ブランド”である。ウイスキーに限らず他のスピリッツ、ワインやビールにおいても同じだが、酒類企業の価値はどれだけ強いブランドを持っているかに懸かっているので、企業とは関係なくブランドだけが取引されたり、会社が無くなっても良いブランドは生き残るのである。又、酒類のブランドの価値は、品質、安定性、歴史や産地、伝統と結びついた社会的な評価等、心情的で無形(Intangible)な要素が中心となっている。多くのブランドが百年を超える歴史を持ち、ライフ・スパンが極めて長いというのも特色の一つであり、ウイスキー会社は強いブランドを揃えて競争力を高めることに力を注いできたと言ってよいだろう。
下記に掲げた図1は、1983年から2014年までのスコッチ・ウイスキーの輸出数量と金額の推移である。最後の4年間はやや停滞しているが、31年間で数量は約1.5倍、金額では約4.9倍に増加しており、スコッチ・ウイスキーはグローバルな市場の拡大に適切に対応してきたと言って良い。尚、金額ベースの伸びが数量の伸びを大きく上回っているのは詳細な分析は行っていないが、単価の高いシングル・モルトの伸びが大きいのと、英経済がインフレ気味であることに由ると思われる。