パロミノ種のぶどうとアルバリーサ(Albariza)土壌:アルバリーサといわれるこの石灰質とシリカに富んだ白い土壌から収穫されるぶどうから最高品質のシェリーが出来る。(Gonzalez Byass社)
パロミノ(Palomino)種のぶどう:シェリーはほぼこのぶどうからつくられる。収穫は早く、9月の第2週から始まる。品質維持のため現在でも大半が手摘みで収穫される。(Consejo Regulador de las Denominaciones de Originのサイトより)
フロール(Flor):熟成中のフィノ・ワインの表面に張ったフロールの正体は酵母で、ワインを適度に酸化し、叉その代謝産物でシェリーに独特のフレーバーを付加する。ソレラの中のフロールはボデガの宝物である。(Pedro Domecq社)
ボデガの内部とソレラ・システム:ボデガの高い天井は外気の影響を緩和し、ソレラの中のシェリーを最適の条件で熟成させる。ボデガ内部の静粛さ、ほの暗さとわずかの光はヨーロッパ中世の大聖堂を思わせる。(Pedro Domecq社)
ボデガの構内:積まれた樽、白壁、アーチ、通路に植えられたぶどう、とスペイン人の美的センスがボデガの雰囲気を盛り上げていて、試飲のシェリーがいっそう美味しく感じられた。(ヘレスのPedro Domecq社にて)
1.シェリー酒の定義
シェリーは酒類の中で、もっとも古くから国際的に原産地呼称が見とめられたものの一つである。その定義の基本的な部分は、
ア.スペインのヘレス地区で収穫されたぶどうから醸造されること。
イ.使用できるぶどうの種類はパロミノ(Palomino)、ぺドロ・ヒメネス(Pedro Ximenez)とマスカット(Muscat)の3種類。いずれも白ワイン用の品種である。
ウ.ブランデーを添加された強化ワインで、最低アルコール度数は15%。
エ.最低限3年以上、ヘレス地区の特定のボデガで熟成されていること。である。
2.ぶどうの栽培地域
シェリーの原産地呼称を得るにはヘレス地方で収穫されたぶどうが原料に使われることが必要であるが、ヘレス地方は更に9つの地区に分けられている。この中で、へレス-プエルト・デ・サンタマリア-サンルーカル・デ・バラメーダを結ぶ3角形に囲まれた地域のアルバリーサ(Albariza)といわれる風化した白い石灰質土壌は最も優良なぶどうを産出するといわれている。収穫は早く9月の第2週から始まる。収穫のほとんどはパロミノ種である。
3.搾汁と醗酵
収穫されたぶどうはすぐに醸造所に運ばれ、搾汁される。搾れるぶどう果汁は原料の70%以下と決っていて、それ以上の搾り果汁はシェリー以外のワインかブランデー・アルコール製造に使用される。醗酵は、現在は大半の醸造場が近代的な大型の醗酵槽で行っているが、一部は昔ながらのオークの新樽で醗酵させるところもある。激しい醗酵は2-3週間くらいで終るが、その後3ヶ月くらいはゆっくりと進行して、12月にはアルコール分11-12%の白ワインが出来あがる。ここまでの過程はシェリーの種類と関係無く共通である。 醗酵が終ったワインを、どのようなシェリーにするかを決めるのはボデガ・マスターで、醗酵槽毎にワインをテイスティングして“これはフィノ(Fino)"、“これはオロロソ(Olorosos)"、“これはクリーム・シェリー"と決めて行く。基本的には、軽くてクリーンなワインはフィノやマンサニージャ(Manzanilla)に, クリーンだがボディーのあるものはオロロソにふり向けられる。
4.シェリーの熟成
シェリーを他のワインから大きく隔絶しているのは、何と言ってもその独自の熟成のさせ方にある。その特徴は ア.一般的にワインは酸化を嫌うが、シェリーは樽の中で数年も熟成させ、‘酸化‘された風味を作り出すこと。 イ.フィノでは、この酸化を樽の中のワイン表面に‘フロール'といわれる酵母の膜を張らせて行い、同時にフロール特有の風味を与える。 ウ.熟成をソレラ・システム(Solera System)を使って行う。ソレラ・システムは樽(Butt)が3-4段に積まれた長い列で、一番下の床に接している樽列をソレラと言い、最も熟成の進んだシェリーが入っている。ソレラの語源はスペイン語の'Suelo'(地面の意)に由来する。シェリーを製品にするには、この最下部のソレラから最大1/3程度を抜き取り、濾過・瓶詰する。抜き取った後は、下から2段目の樽列に入っている2番目に古いワインをソレラに移し、同様の作業を順次最も若いワインの段まで行う。この段の樽には、最後に収穫されたぶどうの若ワインが充填される。このソレラ・システムの特徴は、フィノの場合は新しいワインを入れることでフロールの酵母に栄養源を与えてフロールを維持することと、異なる収穫年のシェリーを混合することでシェリーの品質を長期間安定させる意味合いがある。フィノだけでなくオロロソの熟成にもソレラ・システムを使用しているボデガもある。
5.ボデガ(Bodega)
シェリーの熟成が行われる貯蔵庫をボデガという。ヘレスのボデガは壮大で独特の景観を作り出している。ボデガの内部には何列もの樽が並び、高い天井、壁の上部の小さな窓、暗い室内とまるで大聖堂のような雰囲気がある。樽から天井までの間の大きな空間は、ヘレス地方の大きな外気温の変化を和らげる狙いがある。ボデガとボデガをつなぐ通路や広場にはぶどうの樹やブーゲンビリアが植えられ優れたデザイン空間を醸しだしている。
6.シェリーの種類
シェリーにはいくつかの種類があり、下記のように分類される。
ア.フィノ系
フィノは、色調は薄い麦藁色、デリケートできりっとしたブケー、軽くてドライな味わいを持つ。アルコール分15-18%。熟成過程でフロールがワインの表面に膜を張り、ワインを独特の“生物的に酸化"する。アモンティヤード(Amontillado)は、フィノの熟成過程でアルコール度数を上げてフロールの働きを止めたもの。琥珀色で、シャープでドライな味わい。アルコール分は16-20%。マンサニージャは、サンルーカル・デ・バラメーダ地区でつくられるフィノだが、この地方が他の地域とは異なる独特の気象条件をもち、発生するフロールも異なることから、マンサニージャの特定原産地呼称を許されている。非常に薄い麦藁色の色調、味わいはシェリーの中で最もドライでシャープ、軽い。
イ.オロロソ系
オロロソは、熟成時にアルコール分を18%以上にするのでフロールが発生しない。色は琥珀-赤みを帯びた褐色である。香りは芳醇で味もフィノに比べて重厚複雑、まったりしている。味がドライなドライ・オロロソの熟成に使用された樽がスコッチウイスキーに最もよく使われる。
ウ.スイート系
ペドロヒメネスは、ペドロヒメネス種のぶどうを数日間天日に当て糖分を上げてから醗酵させた甘口のワイン。濃い褐色で、干葡萄の重く深みのある味わいである。モスカテルは、マスカット種を原料として同様に作られる。マスカット特有の芳香をもつ甘口のワインである。
エ.ブレンデッド系
ドライなシェリーにペドロヒメネスやモスカテルをブレンドしたワイン。色が薄くほのかに甘いものから、濃い色調で中甘のクリームシェリーなどがある。オロロソをベースにしたHarveyのBristol Creamがその代表格である。