世界市場におけるスコッチブレンデッド及びモルトウイスキーの消費傾向:近年モルトウイスキーの成長が著しい。1991年の数量を100として、2006年にブレンデッド・ウイスキーが121に増加したのに対して、モルトウイスキーは255、実に2.5倍以上に成長し、全スコッチ・ウイスキーの約8%になっている。高額なシングル・モルトは金額ベースでは17%に達したと推定されている。
バランタインのスタンド(Stockholm Beer & Whisky Festival):バランタインは得意とするブレンデッド・ウイスキーをプロモート。世界第3位のファイネストや12年、高級ブレンデッドで不動の地位を占める17年、21年、30年はウイスキー・ファンの熱い注目を集めていた。
スコッチ・ウイスキーが好調である。とりわけ、シングル・モルト・ウイスキーの伸びが著しいが、主力のブレンデッドも伸び率はシングル・モルトに比べると低いものの高級ブレンデッド・ウイスキーを中心に堅調である。シングル・モルトやトップ・クラスのブレンドの伸びは、現在の消費者が商品に求める高品質、個性、情報性にマッチしているからであると考えられるが、こうしたハイ・エンドのウイスキーの持つ魅力を消費者に直に伝えるウイスキー・イベントの働きも大きいと思われる。
ウイスキーのイベントは、ウイスキー・フェスティバル、ウイスキー・ライブ、ウイスキー・メッセ、ウイスキー・フェスト等々で、スコッチ・ウイスキー蒸溜の中心地であるスペイサイドやアイラだけでなく、最近は世界各地で開催されるようになった。なかでも、ヨーロッパではロンドン、グラスゴー、パリ、ストックホルム、フランクフルト、バーゼル(スイス)、ライデン(オランダ)、リエージュ(ベルギー)、ウイーン、モスクワなどで種々のイベントが開催され、いずれも盛況である。イベントの目的は、一つはトレード・フェア(商業博覧会)として、もう一つは一般消費者向けのフェスティバル、というの2つの狙いで開催されるものが多い。参加したストックホルムとフランクフルトのイベントの様子をご紹介します。
ストックホルム・ビール・ウイスキー・フェスティバル
ストックホルムの市庁舎:北欧文化の中心として長い歴史を誇るストックホルムには歴史的な建造物が多い。中でも1923年に完成したこの市庁舎はそのスウェーデン風のデザインで知られ、また毎年ノーベル賞受賞者の記念晩餐会が開かれることで有名である。
Beer & Whisky Festivalのマスターコース風景:フェスティバルの期間中多くのセミナーが開催され研究熱心なウイスキー・ファンが参加する。参加者のウイスキーの知識、探求心は高く、ディスカッションのレベルは高い。 (K. Mrioka氏 撮影)
北欧の雄スウェーデンの首都ストックホルムは人口約80万人、森と入江に囲まれ、古い歴史を持つ美しい都市である。この地で開催されるビール・ウイスキー・フェスティバルは、ビールとウイスキーのイベントであるが、内容は圧倒的にウイスキーの比重が高い。ウイスキー・フェスティバルとしてはヨーロッパ最大で、2回の週末、都合6日間の開催期間中に、会場の元自動車工場があったナッカ・ストランド(Factory Nacka Strand)には北欧を中心として3万人以上のウイスキー・ファンが集る。
フェスティバルの内容は大きく分けて各メーカーや代理店がスタンドを並べる主会場のホールとセミナーが開かれる講演会場に分かれる。会場への入場(平日 160kr.=約2700円、週末180kr.)、セミナーへの参加(190kr.)、サンプルの試飲(30-50kr./20ml)はすべて有料であるが、これは真剣にウイスキーのことを知りたいビジターに的を絞っていることと、来場者のビンジ・ドリンキング(Binge drinking=無茶飲み)を避け“節度"を求める目的がある。
入場者は、主会場では各社のスタンドを廻り、興味をひいたスタンドでメーカーや代理店の担当者に商品の説明を求め、サンプルのテースティングを行なう。テースティングのやり方を見ていると、まず外観の色は見るが、ウイスキーに加水して嗅覚でアロマ(香り)を仔細にみることは希で、いきなりストレートで口に含み、数回口でモグモグと噛んでフレーバー(口中香と味)を試してからぐっと飲み込み後味と残り香を観察、という順である。鼻(嗅覚)で香りを分析的にみるというより、口に入れて香味を総合的に判断するようである。
セミナーのマスタークラスは、ウイスキー、ビールなどのメーカーや代理店がウイスキーの啓蒙とブランドの品質訴求を目的として開くもので、蒸溜所の歴史や製法の説明と製品のテースティングがセットになっている。Ardbeg, Bowmore, Glenfiddich, Glenmorangie, Highland Park, The Macallanなどスコッチ・シングル・モルトのセミナーが大半を占めたが、日本のサントリーや東亜酒造のセミナーも非常な注目を集めた。
フランクフルト市街:マイン(Mein)河畔のフランクフルトは古い歴史を持つ都市であるが、二次大戦で大きな被害を受け戦後近代的な大都市に生まれかわった。人口約65万人、ロンドンに次ぐヨーロッパ屈指の金融都市として繁栄している。ドイツのウイスキー・フェスティバルは、ここフランクフルトでは毎年、南部のミュンヘンと北部のブレーメンでも毎年交互に行なわれている。
インターウイスキー(InterWhisky)主会場の様子:一般参加者は入場券と引き換えにテースティング・グラスを受け取り会場の各社スタンドを廻る。メーカーへの質疑、一緒にきた仲間同士とのディスカッションは活発で、ウイスキーをよりよく知ってやろうという意欲が高い。メーカー側も高品質は当然、ブランドの独自性と高い説明能力が求められる。(K. Morioka氏 撮影)
ロバート・ヒックスさん:元バランタイン・マスター・ブレンダーのヒックスさんは停年退職後、ブランドが移ったジム・ビーム社でLaphroaig, Teacher's、Ardmoreを担当し元気に活躍中である。ヒックスさんが手にしているのはLaphroaig Quarter Cask, 後ろのポスターはLaphroaig 25年である。 以下ヒックスさんからのメッセージです。“日本の皆様今日は。Laphroaig, Teacher'sは私が引き続き担当しています。どうぞよろしくお願いします"。(K.Morioka氏 撮影)
マイン河畔の都市フランクフルトはドイツ有数の商業都市である。特にヨーロッパ中央銀行を始め、多くの金融機関が集中しドイツ第1の金融の中心地となっている。
そのフランクフルトで毎年開催されているウイスキー・イベントがインターウイスキー(Interwhisky)である。こちらはウイスキ-だけのフェスティバルだが、金曜から日曜の3日間の会期に会場のインターコンチネンタル・ホテルには数千人のウイスキー・ファンが集った。
フェスティバルの内容はストックホルムとほぼ同じで、入場者はホールの各メーカーや代理店のスタンドを廻り、希望者は講演会(マスタークラス)へ参加する。ストックホルムと同じく有料制で、入場料は12ユーロ(約2000円)、マスタークラス参加費は20ユーロ、試飲は一杯3‐5ユーロである。
来場者を見ていると、ペアや数人のグループが多く、テースティングをしながら熱心に意見交換をする姿が目立つ。あるグループは気に入ったウイスキーは友人同士のグループで購入して試飲会パーティーをする、と言っていた。
マスタークラスはMacallan, Laphroaig, Highland Park, Taliskerなどのスコッチ・シングル・モルトが力をいれているのが目立つ。その会場で、偶然元バランタインのマスター・ブレンダー、ロバート・ヒックスさんと嬉しい再会をした。ヒックスさんはバランタイン社を退職後ジム・ビーム社で、バランタインから同社へ移ったLaphroaigシングル・モルトとTeacher'sブレンデッド・ウイスキー、それと新発売のArdmoreシングル・モルトのマスター・ブレンダーを勤めている。“関係のない他社なら行かないが、自分が長年手掛けてきたウイスキーの成長には力を貸したい"と心境を語ってくれた。
世界各地で盛んになったウイスキーのイベントについて色々の批判もあるが、ウイスキーの奥深い魅力について消費者の関心を惹いた功績は大であるし、今後も世界各地に拡大してゆくと思われる。近代的なマス・コミュニケーションではなく、消費者との直接対話という150年前にエジンバラやグラスゴーのスピリッツ・マーチャントがスコッチ・ウイスキーを店頭で販売した方法が復活したようで興味深い。