太陽の光をいっぱいに浴びた大麦が、黄金色の穂を風にそよがせる。古来より、大麦は人にとってかかせない自然からの恵みであった。
バランタイン社の紋章の最初の部分に、大麦の束が描かれているのも、たわわに実った大麦こそがウイスキーづくりの原点だからだ。
収穫された大麦は新鮮な水に浸され、発芽に必要な水分をたっぷりと吸い込む。厳密に管理された発芽室では、みずみずしい香りを放ちながら大麦の粒の一端から小さな根っこが顔を出す。同時に、大麦の内部で発芽が始まる。発芽は外から見えないが、これによって大麦内のデンプンを糖分へと変える酵素が生じる。職人はそのわずかな変化を観察し、どのタイミングで発芽を停止させるかを判断する。発芽が進みすぎると、内部のデンプンが消費されてしまうのだ。こうしてほどよく発芽した大麦を「麦芽」という。
従来、発芽を停止させる工程は「キルン」と呼ばれる麦芽乾燥塔で行われた。今ではモルトスターと呼ばれる麦芽製造業者から仕入れ、麦芽乾燥塔を使う蒸溜所は少なくなったが、スコットランドの各蒸溜所で見られるこの仏塔の様な形をした建物は、ウイスキー蒸溜所のシンボルといえよう。
乾燥塔の内部に入ると、上方には培燥床があり、モルトはその網状の床に広げられる。塔の下部にある炉でピートを燃やし、その熱風で乾燥させる仕組みだ。
もうもうと立ちのぼる燻香は、穀粒にじっくりとしみ込んで麦芽に香ばしいスモーキーフレーバーを与える。こうしてできた乾燥麦芽は、「ピーテッド・モルト」と呼ばれる。
乾燥工程で欠かせないのが、「ピート」である。枯れた植物が堆積し、長い時をかけて腐食したもの、つまり、ごく若い段階の石炭である。スコットランドに広がる広大な原野は、このピート層で覆われている。地層はやわらかいため、細長い鍬で容易に切りだすことができる。
ピートの性質は地域によって微妙に異なる。堆積する植物の種類と、地層の年代が違うからである。そしてこの違いもウイスキー原酒のキャラクターを決定するひとつの要素となる。スコッチがスコットランドの自然を抜きには語れないゆえんである。
ウイスキーづくりの4大要素『大麦・水・ポットスチル・樽』がどのように関わるのか、バランタインが実際にできるまでの製造工程図を紹介しよう。